VEX Robotics世界大会に挑んだ日本高校生チーム【Big Dippers】
/2025年5月、テキサス州ダラスにあるケイ・ベイリー・ハッチソン・コンベンションセンターに、世界60以上の国と地域から約2,400のロボティクスチームが集結した。VEX Robotics World Championship、教育用ロボット競技としては世界最大規模のこの大会が、今年も世界中の若きエンジニアたちを熱狂の渦に巻き込んだ。
その中に、ひときわ情熱を燃やして戦った日本代表の高校生チームがいた。「Big Dippers」結成からわずか1年の新星が、世界の強豪と対峙した1週間の記録を追った。
▼結成1年目で世界の舞台へ
Big Dippersは、高校生の男子4名と中学生の女子3名から構成される混成チーム。いずれもVEX IQ経験者であり、そのうち5名は前回(2023年)の世界大会出場歴を持つ実力派だ。2025年2月には国内大会「VEX V5RC Japan Nationals」で最優秀賞(Excellence Award)を受賞し、世界大会への切符を手にした。
さらに直前に台湾で行われたシグネチャーイベントでは、ファイナル進出とInspire AwardのW受賞。わずか1年目のチームとは思えない、快進撃だった。
彼らを技術面・精神面から支えたのがメンターの中村勇之介氏。カリフォルニア州でVEXやFRCを経験し、複数の州大会優勝を果たした“元世界レベルの競技者”である。2025年秋からは名門UCバークレー大学へ進学予定。その知見と存在感は、チームにとって大きな支えとなった。
▼競技「High Stakes」に挑む
今シーズンの競技テーマは「High Stakes」。制限時間2分の試合は、最初の15秒が自律動作(オートノマス)、残り1分45秒がドライバー操作という構成で行われた。
試合の要は、フィールドに散らばる得点アイテム「リング」を拾い、ステーク(棒状の支柱)に掛ける、またはリングを搭載したステークを所定位置へ運ぶことで得点を重ねる戦略性。さらに、終盤に中央のラダーへロボットを登らせることで得られる高得点が勝敗を分ける、技術と判断力の複合競技だ。
▼初日の洗礼、そして「世界基準」を知る
Big Dippersは「Technology Division」に振り分けられ、全10試合の予選に臨んだ。だが、初日から思わぬトラブルに見舞われる。ロボットがわずかにサイズ制限をオーバーし、インスペクション(事前検査)でまさかの不合格。即座に修正して試合には臨めたものの、チームに動揺が広がった。
結果、序盤の4試合を立て続けに落とす苦しい展開。オートノマス精度、ドライビング技術、戦略構築、そして現場でのアジャスト力。すべての面で世界の厚い壁を痛感することとなった。
▼メンターの言葉が灯した再出発
昼休み、中村メンターがメンバーに向けて車座で話しかけた言葉が、チームの空気を変えた。
「ここまで来たのは、ロボティクスが好きだったからじゃないのか」
「勝敗だけにとらわれるな。世界中から集まった最高の技術を、もっと楽しめ」
この対話が、7人の心に火を灯した。午後からの後半戦では、チームの雰囲気が一変。声を出し、笑顔を交わしながら、3勝を挙げて粘りを見せた。結果は3勝7敗、ディビジョン内67位(全83チーム中)。目標の決勝トーナメントには届かなかったものの、後半の健闘は大きな収穫だった。
▼世界と繋がり、未来を見つめる旅
滞在先のホテルでは、世界トップチーム「TenTon Robotics」や「Echo」と偶然の交流が実現。さらに、スイスやアメリカの日本人学生との出会いもあり、VEXという共通言語が国境や文化を超えることを実感した。
大会を終えたメンバーの言葉には、確かな“変化”があった。
「英語に自信がなかったけど、気持ちを伝えようとしたら思ったより通じて楽しかった」
「自分の役割だけでなく、チームのために何ができるかを考えるようになった」
「ロボット制御の楽しさを知って、進学の方向性が見えた」
「VEXをもっと日本に広めたいと思った」
それぞれが、自らの未来への一歩を見つけた瞬間だった。
▼ロボティクスは、“未来を生きる力”を育む
VEXは単なるロボット競技にとどまらない。設計、構築、プログラミングといった技術力に加え、チームワーク、リーダーシップ、異文化理解、タイムマネジメントといった、未来社会で必要とされる力を養う場でもある。Big Dippersの挑戦は、それを証明してくれた。
▼支えてくれた全ての人へ、感謝を込めて
この挑戦は、スポンサー、保護者、学校関係者、地域、そして現地で出会ったすべての人々の支えによって実現した。世田谷区を拠点に活動する彼らは、今また次なる挑戦へと歩みを進めている。「Big Dippers」の物語は、まだ始まったばかりだ。
▼スポンサーシップについて
本大会への日本代表チーム派遣にあたり、Gephyro Consulting(本社:テキサス州ダラス)はスポンサーとして支援しました。Gephyro Consultingは、次世代の科学技術分野に挑戦する若い才能たちの成長を応援しています。
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